救援物資の食料はもっと役立たなければならない

救援物資の食料はもっと役立たなければならない

被災地で役立たない救援物資の食料

東日本大震災の被災地を訪れたとき、ある栄養士さんが「救援物資の食料が役立たないですね。何とか考えてください」とこぼされました。日頃から懸念していたことだけに「ハッ」としました。救援物資はいわば被災地へのお見舞い品のはずですが、東日本大震災に限らず過去の震災でも、全面的に喜んで受け入れられていたとはいえません。被災者が「欲しい」と願い、送った後に「ありがとう」の感謝の言葉が返ってくる、当たり前の関係をぜひ成立させたいものです。

全国から集まる膨大な善意、貴重な食料資源、遠路運ぶ人手、ガソリン、集積物資の管理などに無駄が起きているのは問題です。さらに排気ガスなど環境汚染にもつながるのはマイナスといえましょう。何が原因でこれらの問題は起きているのでしょうか。ここでは救援食料の質と量にメスを入れてみたいと思います。

なぜ同じような食料ばかり届くのか

救援物資は同じようなものが届けられますが、その理由を考えてみましょう。
南海トラフ巨大地震では、ピーク時の避難生活者数は東日本大震災の約9倍と想定されています(内閣府2013年5月)。駿河湾から日向灘までの太平洋沿岸の市町は、地震と津波の複合災害、しかも広域災害を受けます。そのとき救援物資は主に被災地とその周辺の自治体から届けられるので、あらかじめ自治体の備蓄内容を調べておくと、救援物資の内容が分かります。2013年4月、南海トラフ巨大地震が想定される11府県45市(*1)の備蓄内容を危機管理課に電話取材したところ、申し合わせたようにほぼ同じ内容で、半数がアルファ米でした。高齢者にとってありがたい「かゆ」の備蓄は2%しかありません。結果として被災地に同じものが届くことになり、配分された被災者は「またか!」とうんざりすることでしょう。

自治体からの救援物資にさらに食品企業からの寄付が加わりますが、内容的には大量生産品で日持ちする食品が多くなります。被災地ではライフラインがストップしているので、冷蔵庫は使えません。生鮮食品、冷凍食品は腐敗の懸念があり衛生面で問題があるため送られてきません。また、被災地は生鮮食品の料理もできません。おにぎり、菓子パンなどの生ものはどうでしょうか。南海トラフ巨大地震では、発災翌日、最大で430万人の避難生活者が想定されています(内閣府2013年5月)。生産、流通が遅れることを考えると、避難所に万遍なくゆきわたらせることは難しいでしょう。

これまでの備蓄食品の内容は明らかに健康な成人向けの食べ物で、弱者への配慮が大いに欠けています。粉ミルクと哺乳瓶の備蓄状況についても調べました。粉ミルクと哺乳瓶のどちらも備蓄しているのは調査した45市のうちわずか3市のみで、粉ミルクのみは10市。アレルギー対応の粉ミルクを備蓄しているのは、和歌山市・松山市・岡崎市・東海市・田原市の5市だけでした。30市にいたっては、どちらの備蓄もしていないことが分かりました。少子化で子どもの存在が貴重になっている今日、なぜ粉ミルクと哺乳瓶の備蓄をしていないのか理解に苦しみます。

自治体に求められる弱者向けの備蓄

被災時に悲痛な叫びを上げているのは、ほかでもない弱者です。避難生活者は健康な成人ばかりではありません。乳幼児、そしゃく力の弱い、持病のある高齢者、アレルギー体質の人などがいます。これまで自治体は健康な成人向け備蓄、特に主食(アルファ米、乾パン、クラッカーなど)を中心に長く続けてきました。しかし「個人備蓄を1週間分以上する」と提示(内閣府最終報告書2014年5月)されているわけですから、方針の見直しが必要です。つまり、弱者向けの備蓄を具体化しなければなりません。健康な成人用の食事が合わない人は大勢いるので、必要な備蓄食品は異なります。アレルギー体質の人は、27品目の食品を避けた備蓄食品が求められます。

従来の健康な成人向けの備蓄食品を弱者向けに転換する場合、果たしてどのような食品を用意すればよいのでしょうか。賞味期限3~5年の該当食品がすでに市販されています。自治体は弱者向けの備蓄をぜひ進めてもらいたいものです。

備蓄食品選びは管理栄養士が適任

今回の提言は、備蓄食品の内容を「健康な成人向け」から「それが食べられない、あるいは食べにくい弱者向け」に変えようという内容です。したがって、これまでのように危機管理課など災害対策を取り扱う部署では、食品を選択する知識が足りません。そこで提案です。保健所、健康福祉課などの管理栄養士のいる部門に任せてもらいたいのです。備蓄分量は、あらかじめ市町民の該当者数を把握し、少なくとも1週間分以上備蓄することが望ましいでしょう。そうすれば弱者の要望が満たされるばかりか、救援物資の食料は同じものばかりではなくなり、被災地で歓迎・感謝されることでしょう。

そもそも市町民は1週間以上の食品と飲料水を各自が備蓄するよう提示されています(内閣府最終報告書2014)。自分の健康は自分で守るという観点から、必要な食べ物と飲み物を避難所に持参することが各自求められます。自助は当然です。しかし、そうはいっても避難所にたどり着く前に豪雨で泥をかぶったり、家屋の崩壊、崖崩れ、火災などでせっかくの備蓄品を失うケースがあります。そのときは市町の備えにすがるしかありません。市町の備蓄=公助はそうしたときの予備にすぎません。公助や救援物資(共助)を当てにせず、自助で災害を乗り切っていきたいものです。特に弱者は、入念に自分に適した食べ物を準備しておきましょう。自治体は当面これまで通りの備蓄+弱者向け備蓄の2本立てにし、期限切れの入れ替え時には弱者向けに転換しながら増やしていきましょう。お見舞いの救援が必要なときは弱者向けを届けるようにしていくとよいでしょう。2次災害により死者や健康弱者が増えるのを自助・共助・公助が一丸となって阻止したいものです。

(*1)参考:聞き取り調査した11府県45市名
静岡県(14) 静岡市 浜松市 富士市 沼津市 島田市 磐田市 伊東市 下田市 熱海市 焼津市 
      伊豆市 三島市 御前崎市 湖西市
愛知県(9) 名古屋市 豊田市 岡崎市 東海市 半田市 豊橋市 知多市 豊川市 田原市
三重県(4) 四日市市 津市 志摩市 熊野市
和歌山県(4) 和歌山市 橋本市 田辺市 海南市
大阪府(8) 大阪市 堺市 高石市 泉大津市 岸和田市 泉佐野市 泉南市 阪南市
香川県(1) 高松市
愛媛県(1) 松山市
徳島県(1) 徳島市
高知県(1) 高知市
大分県(1) 大分市
宮崎県(1) 宮崎市