わが街再発見ワークショップ

わが街再発見ワークショップ

防災、防災と叫んでみても…

防災に関する講座や訓練に参加してみると、防災の大切さが身にしみます。企画に参加した後には、防災グッズをそろえたり、家族で避難経路を話し合ったりすることでしょう。そこで、ふと考えます。「防災講座への出席者はもっと多くてよいはずなのに、参加者はいつも消防や警察といった関係機関と婦人会など地元の団体・組織ばかりで、お隣も、ご近所のテニス仲間も参加していなかった…どうしてこれほど大切な催しにもっと多くの人が関心を持たないのだろう?」。そう思った人は「次回の催しにはお隣も誘ってみよう」と思い立つかもしれません。

しかし、お隣からは「忙しくて防災までやっていられない」という答えが返ってきそうです。結局、参加してくれそうにありません。その結果、今後の防災講座や防災訓練も、個人的に防災に関心がある人と、組織・団体の立場から出席を迫られるなど、ごく限られた人たちだけで行われることになる、というのが現状です。

では、どうすれば多くの人々が防災に関心を持って参加してくれるでしょうか? 「自分の身は自分で守るのですよ」と人々に迫ったら参加者は増えるでしょうか? 「防災は市民の義務ではないか」と憤ったら参加してくれるのでしょうか?

魅力のない防災訓練は参加者が少ない

防災の重要性を訴え、防災、防災と叫んでみても、なかなか周囲の人々は参加してくれません。もちろん、その人たちの意識が低いわけではないと思います。実際、日常の関心事をリストアップしてもらうと、防災はきっと上位にランクインしてくるでしょう。それでも参加には結びつかない。どうしてでしょうか? 忙しい、面白くない、邪魔くさいなど、いろいろと表現されるかもしれませんが、要するに「防災が魅力的ではない」からです。あるいは、ほかにもっと魅力的な活動があるからです。

そうであれば、「防災を魅力的にすれば」より多くの人々が関心を持って参加してくれそうです。では、どうすればいいでしょうか? その答えは、そう簡単に出てきそうにありません。そこで、発想を転換します。つまり、結果的に防災への関心が生まれるのであれば、防災を表面に出さないで、地域に呼びかけてみてはどうでしょうか。この場合、あえて防災を唱えないので、通常の「防災と言う防災」と対比して「防災と言わない防災」と名付けてみたいと思います。

「防災と言わない防災」の事例

特定非営利活動法人日本災害救援ボランティアネットワークが実施している「わが街再発見ワークショップ」というプログラムがあります。日本損害保険協会、朝日新聞社、ユネスコなどの協力で、「わが街再発見ぼうさい探検隊」という名で全国展開しているプログラムです。

このプログラムでは、事前に、企画に参加する大人たちが、防災という目標をしっかりと認識し、市役所・消防・警察などと協力して、「わが街」の防災拠点について学習し、地域の子どもたちに防災拠点を知ってもらう準備をします。プログラム当日には、地域の子どもたちに向かって「防災拠点を知ろう」と呼びかけるのではなく、「街を探検しよう」と話を持ち出して、子どもたちを「探検隊」に仕立て上げます。小学校低学年ぐらいの児童ですと、「探検隊」になったことがうれしく、生き生きと街を探検してくれます。

「探検隊」の子どもたちは、街を歩きながらさまざまな施設や人々を“発見”して、写真やメモで記録します(写真1)。大人たちは、探検の結果として防災拠点が発見できるようにそっと誘導するだけです。街の探検が終わると、部屋に戻り、「わが街マップ」を作って発表します(写真2)。子どもたちからすれば、街を楽しく探検している間に、防災拠点を知り、いつのまにか防災マップを作り上げていることになります。大人が、参加する子どもたちに向かって「防災、防災」と連呼しないので、「防災と言わない防災」になっています。

「防災と言わない防災」の二重性

このプログラムの特長は、子どもたちが防災を楽しみながら学べることです。防災活動に関心が持てなかった子どもでも、防災が学べるようになっています。しかし、「防災と言わない防災」の本当の狙いは、その先にあります。

実施前に、企画に参加する大人たちは、防災という目標をしっかりと認識します。そして、地域の防災拠点について事前に学習することになります。その際、役所、警察、消防、また、地域の自治会や自主防災組織とも交流します。ただ参加する前から防災に関心を持っている大人ばかりではありません。むしろ「子どもたちが活動するというので、お手伝いに来てみたら、防災が関係していたと」いうぐらいに感じている大人たちもいると思います。

そうした大人たちが、子どものプログラムの準備のために、地域を巡りながら、地域の防災拠点を知り、地域防災に関心のある人々とのネットワークを広げていくのが特徴です。その結果、必ずしも防災に関心を持てなかった地域住民が、最終的には、防災への関心を持つようになっていることが期待できます。つまり、このプログラムは、探検隊となって街を歩く子どもたちよりも、企画に参加した大人こそが、防災について学んでいることになります。

では、企画に参加した大人たちとは具体的にはどんな人たちでしょうか? 参加する地域の子どもたちの保護者、学校関連団体(PTAなど)、児童関連団体(子供会など)、その他、地域教育・社会教育に関連する団体に属する人々、さらに、地域の一般住民です。こうした団体に所属する人は、子どもたちの地域活動に関心はあっても、地域の防災関連団体が呼びかける防災訓練には必ずしも出席しないという場合が多いと思います。ここには、「忙しいから防災までやっていられない」と言っていた人や、「自分の身は自分で守るのですよ」と言われても、なかなか防災に取り組めなかった人も含まれているでしょう。

このように「防災と言わない防災」では、参加した子どもたちは、「探検隊」として街を歩いただけで、特に防災活動だと意識していないかもしれませんし、企画に参加した大人たちも、子どもが防災を学んだだけと感じているかもしれません。しかし、プログラムが終わる頃には、みんなが地域の防災拠点などに詳しくなっています。このように、防災という本来の目的を(少なくとも主たる目的として)顕示しないで行う防災活動が、「防災と言わない防災」のポイントなのです。

今回紹介した「わが街再発見ワークショップ」は、日常生活の流れの中に、ワークショップという特別なプログラムとして企画していかなければなりません。実際、それなりに準備が必要ですし、少なくとも中心となる大人たちには、子どものことに加えて防災にも関心を持って参加してもらわなければなりません。次回は、さらに自然な流れの中で、もっと知らず知らずのうちに防災が学べるような活動を紹介したいと思います。