誰にでもすぐできる家具転倒防止対策

誰にでもすぐできる家具転倒防止対策

けがの原因の大半は家具の転倒・落下

阪神・淡路大震災時に、建物の中でけがをした人の約半数(46%)は家具の転倒、落下が原因だったという調査結果があります。これにガラスの飛散によってけがを負った人(29%)を加えると、実に4分の3の人たちが家具やガラスで被害を受けたことになります。つまり、家具をしっかりと留めて、ガラスの飛散防止対策を施せば、震災時にほとんどの人はけがをしなくて済むのです。

二つの対策をすぐにも徹底すべきなのですが、実際には一般家庭で、家具の転倒やガラスの飛散の防止対策はまだまだ進んでいないのが実情です。なぜでしょう? 答えは明らかで、その二つの対策に対する知識や情報の不十分さが最大の原因であり、さらに、対策を講じるのに掛かる費用や手間も大きな障害になっています。だとすれば、二つの大きな阻害要因を取り除ければ、家具の転倒とガラスの飛散の防止対策は飛躍的に進むはずです。こうした観点から二つの対策への正しい知識や情報を紹介したいと思います。

家具転倒防止グッズで補強

家具の転倒防止グッズには大きく分けて次の4タイプがあります。強度の強い順から紹介すると、(1)L型金具 (2)ベルト式器具 (3)ポール式器具 (4)ストッパー式器具です。行政では大抵の場合、(1)のL型金具を奨励しています。強度が一番高いからです。ところが、その対策が一般家庭に普及するかというと別問題です。実際にはこの「L型金具」での転倒防止策は、いくつかのハードルがあって思うように進んでいません。

まず、「L型金具」はビスで金具と壁を固定する必要があるため、壁側に穴を開けられない賃貸住宅には向きません。また持ち家の場合でも、一般的な壁は石膏ボードという「すかすか」の素材なのでビスが効かず、L型金具を固定するための木の横板を新たに壁側に設置する必要があり、工務店などに依頼せざるを得なくなります。それが費用や手間の面で大きな障害となり、一向に進まないという状況に陥っています。

ではどうするのか、L型金具と同じ強度を出す別の方法が紹介されています。それは私たちが「合わせ技」と呼んでいるもので、家具の底面に(4)のマット式ストッパー器具を設置し、「踏ん張った」状態にした上で、家具と天井の隙間を(3)のポール式器具で「突っ張る」という、二つの対策を同時に実施する方法です。

(3)のポール式器具と(4)のストッパー式器具を組み合わせれば、(1)L型金具に匹敵する強度が出ます。これなら賃貸住宅でも持ち家でも 実施が可能です。さらに、この「合わせ技」を、お金を掛けずに採用する方法もあります。

ポール式器具の代わりに、ダンボール箱を家具と天井との間に詰め込みます(空箱でもOK!)。隙間が残る場合は、新聞紙などで埋めてください。(4)のストッパー式器具の代わりに、新聞紙などを折り畳んで敷き、家具を壁側に少し傾斜させれば「合わせ技」の完了です。見た目は多少不細工ですが、これならほとんどお金を掛けずに、強度の高い家具の転倒防止対策ができます。

引き出し・開き戸にストッパーを設置

この他にも、引き出しストッパーや開き戸ストッパーの設置が必要ですし、2段式の家具であれば上下の固定も必要です。また、たんすや棚以外にも、近年家庭に普及した薄型液晶テレビやパソコン、プリンターなど、置き式の家具の転倒防止対策も重要です。阪神・淡路大震災の被災者は、これらの家具類が「飛んできた」と証言しています。粘着性マットで台にしっかり固定しましょう。特に薄型液晶テレビはとても不安定で危険ですので、画面サイズ(インチ)に合った、粘着性マットで固定してください。

ガラスの飛散防止の対策

最後に、ガラスの飛散防止対策ですが、これに関しては三つの方法があります。まず一つ目は標準的な対策で、飛散防止フィルムをガラスの全面に貼るというものです。ただし、ガラス全面にフィルムを貼るのはとても大変な作業です。インターネットで検索すれば上手に貼る方法なども紹介されていますから、参照してみてください。

二つ目は、飛散防止フィルムをどうしても貼れないという方にお勧めしたい方法です。それは、ガラスの前面に昼間は薄手のレースを引いておき、夜はカーテンを引いておくという方法です。ガラスが割れたとしても前にあるレースやカーテンに当たって真下に落ちるため、部屋中に散らばるのを防ぐという最低限の対策ですが、阪神・淡路大震災時には効果があったようです。

最後は、ガラスと家具との配置です。最近の窓ガラスはサッシとの間にゆとりを設けてあるため、大きな地震の揺れでもそう簡単に割れない構造になっています。ガラスが割れる最大の原因は、前に置いた家具の転倒によるもののようです。従って、リビングの大きな窓ガラスの前に大きなサイズの薄型液晶テレビなどが無造作に置かれていないか、そういう視点から配置をチェックしてみてください。

阪神・淡路大震災の被災者の多くが「家具は凶器になる」と語っています。また、家具の転倒などでけがをした人の中には、現在は、家具部屋をつくって家具を集中させ、寝室には家具を置かないという人もいます。普段は生活を彩ってくれる家具を凶器にしないために、早急に、しっかりした対策をしてください。家具の転倒防止対策は子どもやお年寄りには不可能です。大人の義務と考え、すぐに実施しましょう。